彼は毎日祈っていた。が、彼は神をもたなかった。あらゆる神を、彼は信じなかった。 村外れの崖の突端で、彼は祈った。人々は彼を変わり者として、誰も相手にしなかった。村の多くの人々は、神をもっていた。彼を異教徒と見る者さえいた。 祈りは静かに行われる。祈る為の祭壇や道具があるわけではない。何か祈りの言葉を発するでもない。ただ、彼は静かに祈っていた。 風がそよぎ、陽光が降りそそぎ、時が流れる。祈りは続けられる。 ある日、旅人が彼の噂を聞き、興味を覚え、彼に会いに行った。彼は崖でやはり祈っていた。 「――あなたは、何を祈っているのですか?」 遠慮がちに話しかけた。話しかけても良いものかどうか、迷った為だった。それほどまでに、彼には何か、漂っていた。 「わかりません。考えたこともありません。」 彼は静かに応えた。 「では、何故祈っているのですか?」 「祈らずにはいられないからです。」 旅人は祈った。彼と共に祈った。何に対して、何を祈っているのかわからなかった。が、祈らずにはいられなかった。
2012年4月22日日曜日
「祈り人」
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