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2011年12月15日木曜日

「生――贖罪」

	
 心臓に楔を打ち込まれ、
 眉間を真直に割られ、
 片目を抉られ、
 そうして残る目にそれを見せられ、
 脳髄の中心を射られ、
 背に紅い十字を刻まれ、
 群集は湧き返る。
 鈍くなった頭は、隻眼で波打つ群れを認め、遠くにその声を聞いている。そして、敏感に嗤い声を聞いている。嘲声を聞いている。だが、頭脳は理解しようとしない。聞こえるがままに聞いている。心に反論すら起こることなく、群れの地平線を探している。
 ふと――、歓声の中に鳥の声を聞いた。垂れた重い頭を持ち上げると、弧を描いて飛ぶ鳥が一羽。罵声がする。
 喉が横一文字に切られ、
 片耳が殺がれ、
 燃える鉄に腹を灼かれ、
 群集は再び湧き返る。
 眼球の奥底が微かに光り、
 首と胴とが切断され、
 三度群集は湧き返る。一際大きな歓声。歓声は歓声を大きくする。
 胴を離れた頭は、――そのひとつきりの眼は、空を飛ぶ鳥をみつめている。
 頭部が巨大なハンマーに潰され、
 その音も歓声の為に聞こえない。

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