僕はこっそりと、彼女の姿を目で追っていた。小柄で可愛らしい感じのする人だった。週に一二度やって来て、文庫本を買っていくことが多かった。 「カバーはおかけしますか?」 「はい、お願いします。」 恥ずかしそうな微笑を見せて彼女は言うのだった。その会話とも言えぬ短い応答が、僕にはただ嬉しかった。 今日は何も買わないのだろうか。彼女は出入り口に向かって歩きだした。が、彼女はふと、窓の外を見て足を止めた。 外は土砂降りだった。曇りがちな空ではあったが、さっきまでは雨の降る気配はなかった。それがいつの間にか酷い土砂降りになっていた。 彼女は踵を返すと、女性誌などを気のないように繰りだした。傘を持ってきていないのだろう。 僕は、雨が止まないよう願った。傘を貸そう。僕も今日は傘を持ってきていなかった。が、店の倉庫には誰のものとも知れぬ傘がある。誰のか僕の知ったことじゃない。傘を貸そう。――そんなことを思いながら、レジから離れようとすると、いつしか雨がぴたりと止んでいることに気がついた。のみならず、太陽の光さえ、きらきらと雨に濡れた街を光らせていた。 彼女も雨が止んだことに気がついた。読んでいた雑誌を元の位置に戻すと、彼女は店を出て行った。 僕は悄然と彼女の後ろ姿をみつめていた。
2011年12月1日木曜日
「通り雨」
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