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2012年10月24日水曜日

「君」

	
  毎日、君を探していた。君の髪を、君の腕を、君の脚を、君の耳を、君の唇を、君の瞳を、…………
 だけど、誰にも、君をみつけることができない。誰も彼も、君とは別人だった。君の一部分すらみつからない。君はどこにもいなかった。
 けれども毎日探していた。見る人全てに、君を探していた。目の前を幾人が過ぎただろう。君が現れることは無い。百人や千人、一万人や一億人、どれだけの人がこの眼に映っても、ただひとり、君がいなければそれが何だというのだろう。淀みなく繰り返される日々の中で、全てが色を失い、流れ去って行く。得るものも失うものも、何ひとつありはしない。無意味な時間だけが積み重なっていく。
 想い焦がれてもこがれても、君は現れない。朧げな幻影が、夢にも現にもゆらめいて。確かな像をむすびかけたと思った瞬間、幻影は儚く崩れ去り。もの憂い生活が重く覆いかぶさる。こんな生活に堪えていられるのは、君の存在で。遠い君の存在で。
 君がいなければどんなにか苦しいだろう。
 君がいなければどんなにか楽だろう。
 君の姿を見ることはできなくとも、君は確かに存在していて。手の届かぬところに確かに存在していて。指先が掠めることも未だ叶わず。徒らなこの生命はながれ。
 いつか君に逢うその時を――その時だけを胸に、今日も、どうにか、生きている。刻々と、かぼそい命の灯火は費やされ。時に己の存在を忘れかけ。それでも君をどこかに感じていて。
 君の笑顔が欲しくてほしくて。いつか逢えたらその時は、この無様な姿を笑ってはくれまいか。何も為せない、この滑稽な男を笑ってはくれまいか。君の為に、どれだけの道化にでもなろう。君の笑顔が欲しくてほしくて、さ。
 君を探している。
 今日も、君はみつからない。
 不安と焦燥懊悩の中、君を探して。君を探し続けて。どうにか、今日も、生きている。君がいるから、どうにか、生きて、いる。不可思議で不可解な、この漠とした世界の中で、意識を微かに繋ぎ止めていられるのは、君というものがいるから。
 来るべき日を待ちながら、無為の生活は続けられ。「来るべき日」は来るのだろうか?――心の寂しさ、暮れ残り。

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