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2011年4月25日月曜日

「決意」

	
 少年は哀しい夢をみていた。閉じた目からは涙が溢れ、目じりを伝って両の耳を濡らした。
 誰か少年の頬を優しく撫でる者があった。少年は閉じていた目を開いた。真っ青な空と、吹きちぎられた真っ白な雲が、遠くに見えた。澄んだ黄金色の陽光が少年を照らしていた。焦点の合わない、少年近くに揺れるのは、深緑の細長い草の葉だった。草は背が高く、空以外の何ものをも少年の目に映じさせなかった。
 少年は草原に寝ていた。ほとんど絶えることなく風が吹き抜けて行った。風は草たちをさわさわと鳴らし続けた。いつしか少年の涙も乾いていた。日の光は暖かく少年を包んでいた。
 少年は静かに横たわったまま、ゆっくりと瞬きを繰り返した。雲が少しずつ形を変えて移動している。決して一所に留まっていることはない。緩やかに雲は変わっている。その雲をずっと見ていると、純白だった色が次第に陰影を帯び、微妙に赤みを射し始める。陽が傾いているのだった。右手の空がうっすらと赤らんでいた。
 夕暮れは感じ易い少年の心を憂鬱にした。早熟な少年に、人間の老いと死を感じさせるには充分だった。
 少年は目を閉じた。そうすれば再び、あの夢をみることは、わかりきっていた。それでも少年は目を閉じた。どこか遠くで少年の名を呼ぶ声がする。誰かはわからない。しかし、とても懐かしい気がする。一緒に帰ろう、と言っている。少年は閉じた眶を開くことはなかった。
 少年は、彼に好意ある全てのものに、背を向けた。

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