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2011年2月13日日曜日

「墓標」

	
「僕は死んじゃうの?」
 少年は切ない眼で彼女を見上げた。ベッドに横たわった少年の体は、いかにも小さかった。
 窓の外では無数の銀杏の葉が、秋の風に吹かれ舞っていた。地面の枯葉を風の撫でる音が、かさかさと聞こえた。
「大丈夫。心配ないよ。」
 微笑みながら、彼女は少年の頭を優しく撫でた。が、彼女は上手く微笑むことができたのか不安でならなかった。
 少年は彼女の言葉に微笑み返しながら、自分の死期の近いことをぼんやりと思った。だが、彼はそれに全く気づかないふりをして、回りながら落ちる黄金色葉を無邪気に見ていた……。
 病室を出た後、彼女は白い壁にもたれ、下手な嘘しかつけぬ――少年を信じさせることもできぬ――自分に涙を流した。
 少年は雪の降るのを病室の中で見た。が、雪の積もるのは見ることなしに、ひっそりと息を失くした。
 近くの寺の片隅に、墓と呼ぶには余りに粗末な、小さな石碑がたった。そこには一本の道が通じていた。誰かが踏み固めた雪の跡だった。その道はどんな吹雪にも埋もれることはなかった。
 白い道が寸毫も乱れることなく今日も続いている。

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